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楽しいプログラミング 《第6回》
無事帰ってまいりました。なんともすがすがしい町でした。むろんあぶない通りを除いて。案の定というか予想以上にというか、全くしゃべれませんでした。その場になると頭の中がまっしろ。でも、話せなくてもなんとかなるみたい。落ち着いた物腰に笑顔を絶やさねば・・・。それにしても体調が良かったなぁ。食は進むし時差ぼけもないし。あたりまえか、もともと寝る時間なんて決まってない。
というわけで、今度はゆっくり観光したいサンフランシスコでした。
今月は「Borland C++2.0」でも取り上げようかな、などと漠然と考えていたのですが、まだMSAに入荷していないようで。まぁどうせ、プログラミングを忘れたプログラマ。たいした評価ができるわけでもないのですが。この前買ってきたアスキーの「オブジェクト指向入門」は、まだPart1しか読んでないし。でもこれ、おもしろいよ。ちとぶ厚いけど。
結局、今月もこれといったテーマが見当たりません。はっきり言えばネタ切れ。こんなことでは、このページのためにCJを買っていただいてるあなたに申し訳ない。よし、なんとかがんばってページうめるぞぉ。
■ Borland C++
ちょうどサンタクララのディベロッパーズ・カンファレンスで発表があったのですが、残念ながら私たちが行ったのはその前日。BC++は、黒いベールにつつまれて鎮座ましますのみでした。
「Borland C++」ねぇ。まぁ、いろいろ事情はあるのでしょうが、なんともしっくりこないネーミング。
こんなに急いでWindowsに対応する必要があるってことは、米国では相当に使われているのでしょうね。確かに会場のデモ機も、Windowsばかりだったような・・・。
「これさえあればWindowsアプリが開発できる」というのがウリです。確かに10万円近いSDKを買わずに済むのは大きい。でも、「Windowsなんて関係ないよ」という人に、$495はいかがなものでしょう。「ならTC++使っていれば」というとそれも悔しい。いろいろバグフィックスされてるでしょうし、「プリコンパイルド・ヘッダー」なんておいしい機能もある。Windows関連を除いたTC++1.5を出して、BC++2.0へのアップデートも可能、というのがベストなのですが・・・。
さて、注目のGUIライブラリ。今回はサードパーティまかせですが、どこのがいいんでしょうか。結論が出るにはもう少しかかりそうです。Zincのライブラリでは、その上で書いたものが、ライブラリをすげかえるだけでWindows/IBMグラフィックス/IBMテキスト上で動かせるようです。それって、理想ですよね。
それにしても、新しく出た「Boland Language Express」、たった18ページで$10とは・・・。
■ 日電版Windows3.0
こうなる事はわかっていましたが、いやぁ、期待に違わずやってくれましたねぇ。時代はすでにモノトーンだというのに、原色を散りばめたレトロなパッケージ。インパクトありますよ。マニュアルの分厚い正誤表は、そのまた正誤表が必要。うむ、こりゃ幸先いいぞ。インストーラはあんなもんでしょう。さぁ起動。なんだぁ、うざったい起動画面だなぁ。ESCと。はい、めでたく起動しました。しかし・・・聞きしにまさるダサい画面。げっ、アイコン名が重なってる! ほんとかよ。
日電の本音としては、Windowsなんて普及させたくない。そりゃそうだ。Winアプリが広まるって事は、98依存の必要がなくなるって事ですから。まさに自分の首を絞めるようなもの。本気で広める気があったら、もっとハイレゾ機を安くしてますって。だけど、出せば売れるとわかってる以上、とにかく出したい。どうせなら一番で出したい。そんなとこですか。あーあ、せこいせこい。PC8001を作った頃の夢と気概はどこへいったのか。
技術的な見地から言うと、見栄えの悪さはひとえに全角文字のためです。しかし、以下のような方法で、これは容易に改善可能なのです。
- システムフォントは、全角を含めてボールド(太字)にする。
- アイコン名は縮小文字とする。
- システムメッセージは日本語と英語を両方もつ。
(1)の全角ボールドなんて、漢字ROMから呼んだフォントを、1ドット右にシフトしたものとORすればいいだけです。ゲームなんて、皆そうしてます。だいたい、全角フォントだってディスクに持てばいいのですよ。実際、日本IBM版Win3では数種類のフォントをディスクにもっています。
(2)のアイコン名は、全く信じられません。せめて半角文字を使う時は縮小文字にすりゃいいじゃない。そういうのって無理なんですか? だったら、漢字を半分に圧縮したっていい。とにかくこの仕様だけは許せない。
(3)のシステムメッセージのバイリンガル化は、Windowsのリソースの形態がわからないため、可能かどうかは不明ですが、実現できたらすばらしいですね。インストール時にどちらか選べるだけでもいいです。それなら簡単でしょ。
しかし、そんな事わめいたってどうにもなるものじゃない。とにかく見栄えだけは良くしたい。2バイト処理なんてどうでもいい。そんなGUIオタクのために、耳寄りな情報をひとつ。user.exeをIBM版と取っ替えてみなさい。これでIBM版progman.exeがちゃんと動き、アイコン名も縮小フォントになります。「98版Win3をいかに見栄えよくするか」、これが98オタクの今年のテーマでしょう。
■ GeoWorks Ensemble
PCの世界では、Win3が将来のGUIを担う唯一の選択、誰もがそう信じて疑わないでしょう。しかし、PC/GEOSをひと目みれば、それがなんとはかない確信であったのか、思い知らされます。これは、IBM PCで動く、OSF/MotifのGUIをもった統合ソフトです。Motifは、もともとWin3を意識したUNIXワークステーションのウインドウ・マネージャですが、その操作性、デザインセンスは、Win3が裸足で逃げだす素晴らしさです。なおかつそのスピードとコンパクトさえもが、Win3を上回っているのです。
- モノトーン・3Dで統一の取れたデザイン
- 表示域の割合によってサイズの変わるスライダ
- ファイルマネージャの操作性
- アイコンのグループ選択
- メニューのプッシュ・ピン機能
- 各社SVGAボードで800×600ドットの表示が可能
- アウトラインフォント搭載のDTP機能
印刷機能は衝撃的です。AP-850で、美しい英文ドキュメントが打ち出せてしまうのです! スピードも、クオリティをMediumにすればそこそこ。当然、バックグラウンド印刷です。これ自体がマルチタスク機能をもつかどうかは不明ですが、時計や目玉が付いていないところをみると、残念ながら無いのでしょう。
今のところ、PC/GEOS用の市販アプリは皆無です。いくら見栄えがよくても、所詮Win3に取って代われるものではありません。しかし、来るべきWin4は、PC/GEOSを越えるものであって欲しい。Win3は、ようやく実用レベルに達したというだけで、GUIデザインはまだまだ未熟です。それがよーくわかりました。WindowsがPC/GEOS、というかMotifライクになった時、そこにはもうMacもNeXTもありません。本当のPC/GUI時代が始まるのです。
■ R.ストールマン
「あっ!あれ、ストールマンじゃない。話しに行こうよ。」 まさかこのカンファレンスの会場でストールマンに会えるとは、一同思ってもみませんでした。それからの中村氏の動きの速さといったら・・・。なんとかインタビューにまでこぎつけてしまったのです。その時の詳しい話は、別途記事になる事でしょう。私は、ひたすら彼の話しを理解しようと、全身耳にしていました。
私がR.ストールマンという名前を知ったのは、結構最近の事です。Oh!No!氏との雑談の中で、「ストールマンって誰?」と尋ねたところ、「えっ、ストールマンを知らないの?」 その時の彼の驚いた顔といったら・・・。
実際会ってみると、想像をはるかに越えたすばらしい人です。話し上手でユーモアにあふれ、エネルギッシュで、そして確固たる信念をもっています。まさに輝くばかりの天才アーティストでした。
惜しむらくは、彼が完全にUNIXの世界の住人であるということ。PCの世界は、拙劣なハードウェアの取るに足らない世界としか映っていないようです。だから全てのソフトウェアは無償でなければならない、と言い切れるのでしょう。OOPやNeXTに対して興味がない、というのも納得がいきます。S.ジョブズとは、まさに両極を成す人物かもしれません。両者の対談が成ったとしたら、どんなでしょうね。
来月は、アスキーの「オブジェクト指向入門」に挑戦してみます。とにかくおもしろそうな本ですから。Computer Todayの3月号はGUIの特集ですね。BC++も入手できるでしょう。「楽しいプログラミング」を始めるには、まだ少しかかりそうです。
(雑誌「PC POWER 1992年12月号」掲載)